”オカンの夏”
「ショウジ、見ときや。
あそこまでお母ちゃん
泳いで行くから！」
「お母ちゃん、やめて！
あぶないで！」
「男やろ、お前は！
泣いたらアカン！
お母ちゃん大丈夫やから！」
「ザッパーン！！」
「ウエーん。。ウエーん！！」
50年近く前の事
夏休みに家族で
海沿いのホテルに
泊まるのが恒例で
今年も、昨年に続いて
「ホテル浦島」
特に父親がお気に入りのこのホテル
和歌山県は勝浦という所にある
このホテルは
海沿いの 漁師町から
ホテル専用の「ポンポン船」で
宿泊者を 乗せ
僅か5分位にそびえ立つ
小島？に建てられた
最新の このホテル！
このホテルを一躍有名にしたのは
鍾乳洞の中に
自然に？ 出来上がった天然温泉
「忘帰洞(ぼうきどう)」
と名付けられた この、温泉は
紀州藩主の徳川頼倫公に
”帰るのを忘れさせるほど”
と誉めて名付けられた
この支局珍しい温泉に
何においても、初もん食いの親父が
胸を張り
「お前らに珍しいもん見せたるわ！
ええか？ホンマビックリするで！」
と、当時、もちろん
インターネットなんか無い時代に
初めて見た
この巨大ホテルに
家族全員 「驚愕！」
「お父ちゃん、すごいなぁ。。」
「やっぱり、お父ちゃんはすごいわぁ。。」
と言われたい為に
先に友達と一緒に行って
確認してから
家族を連れて行くという
めんどくさい親父なのです。。
しかし、こんな時は
絶対に親父は
自信満々！なので
間違っても
中途半端？な絶賛？は
命取りになるので
心して？その時の為に
親父が大満足？する
絶賛をしなければイケナイのです。
そんな、鼻高々？な親父が
この巨大ホテルでゆっくりする事は無く
「何処に行った？」と思わせるくらい
神出鬼没？な動きをするのです。。
急に表れた！！
と思ったら、消え
また出た！！
と思ったら。消え。
一体全体、何処に行ったのか？
そんな、めんどくさい親父を
全く今でも、よくわからないのですが
オカンは
ケラケラ笑っているだけなのです。。
ところが、私達兄弟が
プールで機嫌良く遊んでいると
「出た！！お父ちゃんや！！」
何故だか嬉しそうな顔をして
立ってるやないですか！
「おい！あの岩のとこまで
泳いでいくぞ！早よせえ！」
「あんた。。アカンで。。
大丈夫かいな？」
と、言ったと思ったら
なんと親父
「飛び込んどる！！！」
明らか、自殺行為？に見えた
泣き叫ぶ、幼い私達兄弟を尻目に
めんどくさい親父が
「お前も早よ飛び込め！」
と、どうせだったら
自分一人で死んでくれ！
と思う私達には構わず
オカンを誘うのです。。
結果冒頭に述べたくだりになり。。
オカンは、嬉しそうな顔をして
親父の元へ、飛びつく様に
泳いで行ったのです。
先に、その岩にたどり着いた親父は
遅れてやって来たオカンを 抱き上げ
豪快に笑っていたのです。。
そんな、若い日の、オカンを
そして、そんな
めんどくさい親父を 見て
あほらし。。
と思った、あの夏。。
もう二度と見る事の出来ない
若い日の私の両親の姿。。
オカンが、亡くなり
二度目のお盆を迎えた
この暑い夏の日に
一人、記憶を静かに探りながら
「オカン、オモロかったよな。。」
貴方は、本当に
親父を心から愛していました。
今、この歳になって
自分の心が震えるくらいわかるのです。。
合掌
最後までご愛読ありがとうございました
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Posted at 08:39
