【あの日、あのスライディング】
「監督!次は絶対打ちますよ!!
見ててください」
O君にとって本日最後の打席
うだるような暑い夏の日だった
小さな川が横に流れる山裾のグラウンドで
私たちは白球を追っていた
草野球のリーグを自分で立ち上げ
すでに10年は経っていた
参加人数も200名近くになっていた
当初、野球好きな仲間でリーグを作り
細かくスコアを取り
順番に審判も私たちで立つことにして
一年のリーグ戦が終わったその年末に
リーグに参加したメンバーだけではなく
その家族も参加可能と呼びかけ
最後のパーティー表彰式には
数えきれないほどが集まり
神戸のメリケンパークオリエンタルホテルの
大宴会場に集結したのでした
司会進行から表彰式に至るまでさながら
プロ野球の表彰式のようにしたく
それはそれは楽しい夢のような時間でございました
もちろんそんな時間が
身体の続く限りやりたい!と願っていましたが
辞めた理由を20年経った今
やっと文章で書くことで
許してもらえそうな気がしたのです
冒頭のO君は
私が通っていたガソリンスタンドの若い店員さんで
当時23歳の新婚さんだったのです
まもなく子供にも恵まれ
産まれた時には、何枚もの写真を私に見せて
「可愛いんですよ!!これ見てください!!」
そんな彼が
「いつか時間が取れた時
草野球に混ぜてください!!」
私たちは日曜日の早朝野球を
メインにしていたので
ガソリンスタンドは日曜日が休みでなかったため
なかなか彼が参加するタイミングがなかったのです
しかしあの夏の日の3日くらい前に
突然私の前に現れて
「今度の日曜日行けそうです!!」
と言われたのですが
喜んでそのままスターティングメンバー
それもトップバッターで起用したのです
久しぶりの野球だったと見え
全く良いところがなかった
三打席までとは様子が違って
最後の打席に向かう時
「絶対打ちます!!」
と言ってバッターボックスに向かったのです
そんな彼が粘りに粘り
カウントツースリーからひっかけたような
サードへのボテボテのゴロでした
その打球を見た瞬間、誰もが
「だめーーー。。」
と思ったのですが
サードの選手が
少しフアンブルをしてもたついていた。。
私たちはO君を見ると
必死、本当に必死に走っていて
最後はファーストべースにスライディングし
見事にセーフになったのです
塁上で何度もガッツポーズを繰り返し
微笑んでいた彼が
まさかその3日後、自殺したと聞いた時
私は足から崩れ落ち声が出ませんでした
スライディングした時の乾いたような土煙や
ベルトがズレた彼のユニホームが
頭の中でグルグル浮かぶだけでした
その自死は誰もが想像しなかったし
今でも私にもわからないのです
あれからすぐ私は草野球を辞めましたが
やはり野球自体は大好きなので
今でも毎日、プロ野球観戦しています
そんな私が20年間ずっと思うことは
O君の執念の あの内野安打
あのスライディングは本当に美しかった
汗をかいて満面の笑みで
ベンチに向かってガッツポーズで
何度も腕を上げていた
君はあのグラウンドで輝いていた
それは紛れもない事実なのです
誰にも言わないでおこうかと思いましたが
そんな彼があの夏の日輝いていたこと
文章としてどうしても残したかったのです
最後までご愛読ありがとうございました
O君、君はあの時のままやんな
俺は歳とっちゃったわ
でもね、あのスライディングは忘れてないよ
Posted at 09:39