【縁側の椅子】
「じゃぁお母さん交代」
その時、私は新規会員さんへの
ひと通りの説明を終え無事契約となり
家内とバトンタッチし
和室の縁側のお気に入りの椅子に
一息しようと腰掛けた
先日庭師さんにて剪定してもらったおかげか
綺麗に刈り込まれた庭を眺めること
縁側が一層好きになり、そういえばと
死んだ私の祖父も遠い昔全く同じような椅子に座り
ボンヤリと庭先を見ていたのを
何故かその時思い出した
「おじいちゃん何してんの？」
「ほれ。あそこ。」
亡くなる数年前のこと
力なく指差す場所に何の花だったか忘れたのですが
紫だけがよく映える花びらが私の記憶にあるのです
4人目の子供が産まれた時に、その命と引き換えに
私の祖母は亡くなったと聞きました
それから男手ひとつで4人の男の子を育て
三菱重工の下請け会社として
たくさんの従業員を抱え、会社を一代で築き
また時代が時代で
ちょうど高度経済成長の波に乗ったのか
かなり子供心に思い返してみても
とても裕福だったような気がするのです
私の父はそんな祖父の話を
何故かあまり教えてくれず
父親が死んだお葬式の時
叔父から初めて聞いたのは
私の父親が実はいわゆるボンボン育ちであったこと
子供の頃からお手伝いさんがいて
ワガママ放題に育ったこと
兄弟の中で唯一出来が悪い息子だったので
強引に警察官にさせたこと只々
「怖い」と父親から聞いていた祖父が
実は大変温厚で子供たちに優しかったことなど
恥ずかしながら父親の死後初めて聞いたのです
お正月になると家族全員が集まり
その上座にドンと座り「おめでとう」から始まり
祖父の言葉を聞き逃さないようにと
あの父親すらも正座をし
もちろん一族全員も黙って聞いていた
それから順番に孫たちは通知表を持って
何故か祖父に見せなければいけないのが
福山家の伝統で、これまた一番親族で
通知表の成績がダントツで悪い私が
父親同様正座して黙ってその時間の過ぎるのを待つ
今の時代では絶対に考えられない
お正月だったのですが、しかしその時間が終えると
それはそれは賑やかなお正月が始まるのでありました
孫が総勢11人、年齢も近かったので
とても仲良く家中走り回って
かくれんぼや鬼ごっこをして遊んだのです
私同様お酒を一滴も飲めない父親が
その時だけとビールに手をつけ
酔っていたのを今でも思い出すのです
「なかなかくたばらんな(笑）
ありゃ元気や（笑）」
一晩泊まった帰りの車の中で
そんな悪態をつく父親の言葉が
実は祖父に対しての愛おしさや
元気だと自分が安心したいためだったんじゃないか？
そう思えたのは、ずいぶんのちのことでした
時が流れあの祖父も父親もなくなりましたが
祖父が好きだった縁側の椅子に似た
同じ色彩の椅子をリサイクルショップで見つけた時
私は小躍りしたのです
庭先には紫の艶やかな花はありませんが
椅子に腰掛け目を閉じると
あの時の光景が浮かぶのです
ボンヤリ花を見ながら私をゆっくり見つめ
「お前もやっぱり勉強嫌いか？カッカッカ（笑）」
出来が悪い父の血が実は愛おしかったのか？
その顔はニコニコしていました
最後までご愛読ありがとうございます
最近いろんなことを鮮明に思い出してくる
私も歳を取ったのかな？
真剣にご結婚をお考えの貴方
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Posted at 09:39