【夏休みの宿題】
「全く何もやってないんか！
あきれた！
バケツ持って立っとれ！！」
クラスの全員が笑っていた
これで何回目になるのか。。
いつからか夏休みの宿題をしないと決めたので
毎年、バケツに満タンの水を持って
廊下に立たされている
夏の間に塗り足したのか
油くさい廊下の匂いが鼻につく
しかし両手にバケツを持っているので
鼻を抑えることも出来ない
「福山くん。またー（笑）」
休み時間になり
となりのクラスの女子が
数人で笑いながら過ぎ去る。。
手は小刻みに震え脚まで震えだした。。
その時、担任の先生がパッと目の前に現れ
「来年はちゃんとやれよ！わかっとんか！」
「ハイ！」
これで終わりの合図と頭をゲンコツで
おもいっきり「ゴーン！！」と叩かれ
無事バケツから解放されるのであります
それでは何故宿題をしなかったのか？
答えは明白でただただ遊びたかった
勉強が嫌いだった
そして何より他の小学生と比べ忙し過ぎたのです
もちろんそれは全て言い訳ですが
朝昼は両親の仕事の手伝い
警察官を辞めて脱サラした父が市場で商売を始め
それが当たりに当たり行列が出来
今でいうパートさんが７人くらいいても回らず
当時小学生の私たち兄弟まで店頭に立ち
「はいらっしゃい！はいらっしゃい！
奥さんこうてって！！」
と、叫んでいたのです
夜は夜で何を思ったか父親が
自宅の一階で喫茶店を始め
当時カラオケなど無い時代
これはこれで何を閃いたか父親が
「息子が歌が抜群に上手い」
とお客さんに言い出し
嫌々満席のお客さんの前で
おもちゃのギターを持って歌わされたところ
これがばかうけ。。
泣いているお客さんまで現れ
酔っているのもあったのか一曲終わると
相当なチップが集まりいただいたのです
それに気を良くしたのか父親が
「こいつ、演歌も浪曲もいけまんねん
もちろん軍歌も歌いよる」
そんなことを言ったので酔っぱらいたちが
「ほんまか！じゃ次は美空ひばりや！」
「ラバウル小唄！」
「ブルーシャトーや！」
あまりに大人たちが感動してくれるので
私も気持ち良くなってきて
次から次へと歌を繰り出したのです
３時間、４時間歌っただろうか
チップを入れたザルのようなかごにはお札が溢れ返り
そろそろお開きと
てっきりそのチップをいただけるのかと思ったら
父親に全て取られ
「子供はそんなん持っとったらアカン」
と100円玉だけもらったのでした
しかしそれからが大変で、あの酔っぱらいたちが
「おそろしいくらい上手い小学生がおる！
一回聞かなアカンで！感動して泣いたわ！」
ありがたくそんな噂が噂を呼び
毎夜嵐のようにお客さんが来たのです
それに答えようとラジオを聞いたりレコードを聞き
新しい歌のレパートリーを増やしていったのです
そんな夏休みだったので、全く宿題どころではなく
実はその先生までもが店の常連だったので
その醜態は山ほど見ていたし
私の歌う「浪曲子守唄」で毎回泣いて
「福山。おまえは勉強なんかせんでええ」
そう言ってくれたのです
しかし先生としては
バケツを持たさなければいけなかったのです
さすがに小学生高学年くらいになると
恥ずかしさもあり喫茶店にも出なくなり
父親の濡れ手に泡の商売は終わりを告げたのです
そんな時代があったのか！ と、思われた方。。
そんな宿題をしなくていい時代などありません！
本当に変な父親で子供だっただけであります（笑）
最後までご愛読ありがとうございます
夏休みの宿題を一切しなくて学校に行けたなんて
今思うと恥ずかしくて苦しい。。
そんな孫は絶対に出ないことを祈るばかりです
「出るわけない！」
家内が怖い顔して言い切りました
真剣にご結婚をお考えの貴方
おせっかいな私達にお任せ下さい。
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Posted at 09:39