【初めてのグローブ】
「そんなにキャッチャーミットが欲しいんか？
なんでキャッチャーミットなんや？」
「お父ちゃん知らんのか？
俺いつもキャッチャーしてんねんで」
「なんでキャッチャーするんや？
ピッチャーの方がオモロイやろが」
「みんな持ってんねんでグローブ。
俺も欲しいわ」
「そうか
ほんならまた買ったるからな、また今度や」
出た。。
また今度や。。
あの父親に何度頼んだのだろうか？
機嫌のいい時を見計らい
数え切れないくらい幾度も頼んだのですが
その都度同じ問答があり
「なんでキャッチャーミットや？」
となるのです
昭和40年頃の時代
グローブは極めて高級品であり
その中でもキャッチャーミットは
特別に高い代物だったのです
今では子供が少し駄々をこねれば
何でも手に入る時代に私には思え
羨ましい限りなのであります
父親はその中でも
昭和の代表的な父親像そのままで
子供に物を与えることを悪と考えていたのか
特別なことが無い限り
物を買い与えることはなかったのです
だから私や兄はいつも、守備の時は
友達のグローブを借りて いたのです
しかし当時の野球少年は
自分のグローブを
それはそれは丁寧に油で磨き上げ
自分の手に合ったように型を作っていたので
人に貸すこともあまり気乗りはしないのでありました
中には
「グローブなんかいらない！」
そう言い切る子供も多くいたのです
しかし、キャッチャーとファーストだけは
どうしてもグローブが必要なので
グローブを持っている友達から借りるのです
野球は9人でするものですが
草野球となると
5人対5人くらいが多かったのです
その10人が揃っても
肝心のグローブが２個しかない
そんな下町で育ったのです
3歳くらいから、何より野球が大好きだった私が
父親に頼んで
確か5年くらい経った小学校の3年生の時に
いったい何があったのかわからないのですが
すこぶるご機嫌で帰宅した父親が
「しょうじ。グローブ買ったる
今から買いに行くで！」
その時の嬉しさは
いまだに忘れられないのです
「ホンマか？ホンマに買ってくれるん？
お父ちゃんキャッチャーミットやで！高いで」
「わかっとるがなキャッチャーやろ
何でも買わんかい！」
その足で何度も見に行った
「赤玉スポーツ」のグローブ売り場に行ったのです
とにかく、この父親の気が変わらないように
一秒でも早く
お目当のグローブを見せたかったのです
しかし、その時私は
たくさん陳列されているキャッチャーミットの中から
自分のお目当の柔らかいグローブではなく
かなり固めのグローブを指差したのです
柔らかいグローブの半額くらいの
開いたまま固まってるようなグローブを
咄嗟に手に取り
「これが欲しいねん！」
あの時代の親が
かなりの確率でそう言っていたように
決して豊かではない贅沢はしてはいけないと
幾度なく母親から聞かされていたし
子供に簡単に
物を与えるような父親ではなかったのもあり
何よりそんなワガママを
私が言うことがとても悪いような気がしたのです
しかし父親は
「これでええがな
こっちのグローブの方が柔らかい」
そう言ってくれたのですが
頑として私は
「これが欲しいねん！」
と言い切ったのです
結果、その固いグローブを
実は私は
家内と結婚するまで持っていたのです
ボロボロになりながら
まるで自分の手のひらのような
柔らかになったグローブを大切にしていたのです
さすがにあまりの匂いのキツさに捨てましたが
それはそれは大切なグローブでありました
今の時代では考えられない時代ではありますが
私には、親に買ってもらう大変さや
物を大切にする、あんな時代の方が
実は幸せなんじゃないだろうかと思うのです
最後までご愛読ありがとうございます
あぁ。。
野球がしたいな。
高校野球見てたらいつも思うんだよな。
真剣にご結婚をお考えの貴方
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Posted at 09:39